タイムテーブル
 今日、4月14日は、「Day CONTACT1 in 名古屋」が催された。集まったのはこの手の話が好きな30人。私にとっては2回目となるFCS(ファースト・コンタクト・シミュレーション)である。
この30人が2チームに分かれ、お互いに自分たちの世界、世界観、コミュニケーション手段、宇宙の乗り出した理由を設定し、とある惑星上でコンタクトをする、という内容である。
タイムテーブルは9:30から受付が始まり、10:00から会長挨拶、趣旨説明、会場での注意事項が話された。10:30~11:30で自分たちが宇宙 に乗り出した目的、基本的な生物像を構築、11:30~12:30が昼食、12:30~13:00で自分たちの外見、その後14:00までかけてコミュニ ケーション手段やタブーなどの設定を行った。14:00からはお互いに通信文のやりとりをし、15:00からは直接コンタクト(出来ればいいなぁ)、その 後16:00頃からお互いの世界を発表する反省会、という形を取った。あ、あと最後には当然懇親会が待っていたが。

動機・人数
 さて、10:30から実際にお互いが分かれて世界構築を始めたわけだが、我々のチームでの「宇宙に乗り出す動機」は「社会から迫害された(と思ってい る)科学者達」ということになった。具体的には、この世界では「宇宙、特に恒星間に乗り出すことは宇宙の汚染に繋がるので、やってはいけない」という考え 方に支配されているとした。その中で知的好奇心を持つ科学者の一部は迫害され、この星を出ていくために恒星間宇宙船を建造し、母星に戻るつもりはない、と いう設定とした。他には以下のようなものがモチベーションとして考えられていた。
移民、学術研究、資源探査、交易、観光、本能、仕事(TV特番、映画)、公共事業、(宇宙船を飛ばすこと自体が目的)、犯罪者を追跡、宇宙船事故、私は逃亡者。

そう言う意味では「私は逃亡者」が選択されたわけだが、社会から迫害されたために逃げ出した科学者達という選択肢以外には、
1)選民思想を持つ人々
2)政治闘争に敗れた思想犯
などもあった。ある意味では無難なところに落ち着いたとも言える。

次に逃げ出した人数であるが、これはコールドスリープなどの技術的支援があるかどうかは別として、冬眠をする陸棲の種族で、さらに普段起きているのは 20人程度だが、宇宙船全体では1000人程度が脱出した事にした。こんな状態だから宇宙船は1隻だけしか建造できないであろう、ということだ。

外見
 さて我々の外見だが、これは「人間よりも低い!」というのがみんなの一致した意見であった。そのため様々な検討結果から身長70cm、体重10kg程度ということになった。丁度机の高さくらいが良いのかねぇ、というわけだ。
そしてベースとなる生物として「クモザル」が挙げられた。何のことはない、何か物を掴んだり出来るしっぽが欲しかったのだ。しかもしっぽの位置もお尻ではなく、頸の下、肩胛骨の上あたりとされ、長さは「ダランと垂らした時に地面につく程度」となった。
さらに話は続く。続いてしっぽの先に触覚以外の感覚器を付けたい、という話が持ち上がった。そこで光、赤外線系の光学センサーか、それとも嗅覚・味覚の 統合された化学センサーのどちらにするかで投票が行われ、後者が取り付けられた。これにより相手を「味」で判別できるようになり、場合によっては相手の体 調もわかるんじゃないか、という話も出てきた。これは後ほどのコミュニケーションに大きく関わってくる。
最後に表面はどうなっているかが検討された。けっこう奇抜なものが提案されたが、最終的に採用されたのは「ハリネズミのような針で覆われている」であった。色は赤褐色。
ちなみにボツネタは「毛」「鱗」「角質層」「人間のようなソフトスキン」などがあった。あと「鱗粉」というのもあったが、さわると手が粉っぽくなると か、半導体が作れないのでは、という意見が出てボツになった。これは「構造色」になっていて、見る角度によって色が変化して見える、というネタから発展し たものだった。
こうして我々の外見が決定された。しかし一体どんな進化圧を受けたら、こんな知的生命体になり得るんだろう?不思議だ。


生態・コミュニケーション手段・タブー

 樹上生活であるからして、音でコミュニケーションを取っているであろう、とされた。設定としては「声帯が弱くて大声を出せないので、楽器を使うことにより意志の疎通を図る」ということになった。つまり楽器は人間で言う「印刷術」にも匹敵する大発明だったのだ。
生態であるが、卵生であり、産まれた卵は管理するが、孵化した後に生き延びられるかはその個体の生命力に任されることとなった。つまり弱い個体は早期に 死んでしまい、より強い個体だけが生き残るのである。そして生き残った個体には、コミュニケーション手段である楽器が手渡されることとなった。
しかしこれでは楽器が手渡されるまではどうやってコミュニケーションをするのか?が問題となる。また両性具有とされたため、誰が子どもの面倒を見るの か?も議論された。その結果、かなり大きな家族集団(20~30人)を取っており、子どもは家族全体で面倒を見ることに。その中では身振り手振りで意思の 伝達が行われ、もっと親密な場合にはしっぽの先端を絡ませあうことで、意志疎通を図ることにした。

ここからコミュニケーション手段が整理され、最終的に決定されたのは
1)大変親密な間柄ではしっぽによって単純な情報伝達が行われる。
2)友人レベルであれば身振り手振り(踊り)によって意思が伝達される。
3)他人の場合は楽器による音(音楽)で情報伝達が行われる。
4)情報の記録には楽譜が用いられる。
などとなった。
さらにタブーも設定された。当然の事ながら、「知らない相手のしっぽを触ること」となった。大変失礼なことであり、ある意味「セクハラ」だということになった。
しかし気がつくと「知らない人との間ではピープーと音楽を演奏し、友人や家族との間では踊りまくり、恋人や夫婦間では尻尾を絡めて黙っている」という、 奇妙な世界が出来上がっていた。しかも「嬉しいとき」だけではなく、「怒ったとき」も「泣いているとき」も小躍りするのだから、油断の出来ない種族だ。

その他の設定
 コンピューターの発達に伴い、普段はシンセサイザーを使っている。その音色は個体別に異なっており、それを思い思いにチューニングする事が個性を主張す る事にもなっている。また生楽器はほとんど使用されていないが、フォーマルな場では生楽器を使用することが礼儀であるとされている。これらのため、彼らは 服は着ていないが、普段から楽器を着て生活している。
またしっぽは普段肩にかけられていて、どちらにかけるかによって、その個体の利き手(?)がわかる。あと残った設定として、彼らは自分たちの種族のことを「しっぽが風を切る」音から「ヒュンヒュン」と呼んでいる。
以上のようなことが決まった。

プレ・コンタクト
 14:00から通信によるプレ・コンタウトが始まった。それに先立つ状況を説明すると、我々が目標としている星系の第2惑星軌道上に異星人の宇宙船4隻 を、さらに第4惑星に向かいつつある宇宙船1隻を発見した。我々にとって、ショックが大きかった。何故なら、ここには過去の観測から知的生命体は存在しな いと考えられていたからだ。
「原住民がいたのか?もしかして我々が母星を離れて120年。その間に電波を使い始めたのだろうか?」
「いやいや、もしかしたら別の星系から来ているのかも・・・」
我々は各惑星の地表をくまなく走査することにした。同時に既に減速フェーズに入っており、1ヶ月ほどで第2惑星に到着してしまう。当然相手からも逆噴射 の光は見えているはずだ。敵対行動を取るつもりはないことを相手に知らせなければならない。我々は通常のコンタクト手順である「素数列」「四則演算記号・ 論理演算記号」「元素周期表」をデジタルと我々の音楽とで発信した。音楽はAM変調により送ることとした。
音楽を送ることに対しては異論もあったが、1ヶ月という短期間しかないため、相手の警戒心を和らげるための努力は惜しむべきではない。情報は出来るだけオープンにしようということで、送ることにした。

相手から返事が返ってくるまでの間に、各惑星の表面の様子が明らかになり、どこにも文明の痕跡はないという結果が出た。つまり彼らは原住民ではなく、他 の惑星系からやってきていたのだ。しかも宇宙船5隻で!きっと彼らの母星にはもっと数多くの宇宙船があるに違いない。我々の敗北感は高まった。何とか穏便 に第2惑星の端っこを分けてもらうのだ。もしそれが出来なければ、我々は再び別の星系を目指すしかない。

しばらくして相手側がなにやら行動を開始した。第2惑星の軌道を巡る4隻の宇宙船が発光信号を送り始めたらしい。だがいくら解析しても何のメッセージであるのかはわからなかった(あとでわかった話だが、ただのネオンサインだったらしい)。
それに続いて返事が返ってきた。周期表の中でタンパク質を作る記号だけをチョイスしたものが届いたのだ。どうやら炭素系生命らしい。しかし何故これだけを送ってきたのだろう?もしかして我々を食べるつもりなのか?憶測が飛び交う。
さらに、我々の音楽がなにやら変なアレンジを加えられて返ってきた。早速聞いてみるが、全く意味をなさないモノになってしまっている。一体何なのだろう、これは?どうやら単なる音としてしか認識されなかったようだ。

しかし第1段階としてはまずまず成功なのだろう。さてでは次はどうするか・・・取りあえず適当に距離を置いて、交信を続けることにした。問題は我々の船をどこに泊めるかだが、よくわからない相手とはまず音楽でやりとりをしたい。そこで
1)第6惑星付近
2)第3惑星付近
3)第2惑星と恒星の作るラグランジュ点
が候補として挙げられ、最終的には3)が選択された。早速相手に対してその旨、メッセージを送る。
だが、返ってきたのは「第2惑星に来て欲しい」というものだった。それも4隻の宇宙船からではなく、地上からである。
「これは罠だろうか?」
しかし罠と決定づけるだけの決め手もない。母船はラグランジュ点に向かい、着陸船のみを第2惑星に送るという提案もあったが、「相手の機嫌を損ねたくな い」という理由で、母船で第2惑星に向かうことにした。とはいえ停泊したのは静止軌道の3倍の距離であり、そこから着陸船で地表に降りることとした。同時 に次の運行当番を起こすことにした。

コンタクト
 着陸船には志願した者だけが乗り込んだ。いわゆる「決死隊」だ。なにしろ相手は何を考えているのかわからないのだ。いきなり食べられるかも知れない。だが、出来る限りの礼節を保つべく、全員が生楽器を着ていくことにした。
そして着陸。決死隊から送られた画像を見て、我々は息をのんだ。おおよそ単一種族とは思えない、多様な形をした生き物たちがそこにいたのだ。羽を生やしている者があれば、角を生やしている者、大きさも1mからもっと大きいのまで様々だ。
「もしかしていくつかの混成種族か?」
とも思った。だがどうやら同じ言葉を喋っているらしい。
決死隊は勇気を奮い立たせて大地を踏みしめた。そして我々の挨拶を音楽と踊りとで送る。相手が喜んだ(ように見えた)。そして次々と近寄ってきては「ワ レワレ~、ワレワレ~」と言っている。何の事だかわからない。しかも音を鳴らす者、点滅している者や濡れてくる者までいる。
「一体何なんだ、こいつらは?!」
しかも油断すると触ろうとするし、呆気にとられている者は、どこかに連れて行かれようとする。しかも不躾なことに彼らはしっぽを触るという蛮行に出た。
決死隊はパニックを起こし、全員慌てて着陸艇に逃げ帰った。
「もう帰る!」
と泣き出す者までいる始末。これは大変なこととなった。

軌道上に残った者は次第に落ち着きを取り戻し始めた決死隊と協議し、相手に触られた者の体から得られるDNAサンプルを解析すること、相手が流し始めた 何か(情報、おそらくは彼らの言語を伝えるもの)を解析すること、を決死隊が行い、その間に船は燃料補給を行うこととした。
そして船が帰ってきたときには、決死隊は相手の言葉を理解し、話が出きるまでになっていた。そこで、我々は再び相手との対話を行うこととした。ただし今度は着陸船から出ず、スピーカーを通じてである。
その結果として、
1)どうやら相手は単一種起源で、体を改造している間に多種多様な外見を持つようになった
2)第2惑星にはそんなに長く留まるつもりはなく、我々がドーム都市を建設したり、テラフォーミングを行っても別段問題がない
3)他の種族の体の一部を遺伝子レベルで組み込むことが好きで、我々の遺伝子を欲している
などがわかってきた。
折角なので我々のや動植物の遺伝子サンプルを提供する事にした。ただし、相手は我々との直接交配をしつこいほどに求めてきたが、
「将来的にそう思う者が出てくるかも知れないが、いまはまだそういう者はいない」
とだけ告げた。彼らの中の一人が
「今度は我々の大きなベッドも是非見に来てください」
という言葉を最後に対話は終了した。

反省会
 どうして同じような条件設定で始めたのに、隣の部屋と我々の部屋ではこうも異なる異星人となったのだろう?不思議で仕方なかったし、相手についてはわからないことだらけだった。
だがここで謎が解けた。彼らは知的好奇心が文明を発展させた我々と異なり、「如何にして自分の体を変化させるか」「如何にして突然変異するか」を文明化 の原動力としていた。そしてこの惑星にも「ハネムーン」に来ていたらしい。我々は今まで見たこともない新しい遺伝子資源であり、交配することにより変化し た子孫を残したかったらしい。

今回のFCSは「出会い系イベント」であったが、某スタッフの言葉を借りれば
「厳格な親に反発して家出した箱入り娘 VS 女の子といいことする気でアパートに部屋借りたばかりの派手な格好のナンパ野郎」
ということだったようだ。その後行われた懇親会はお互いが使わなかった(使うところのなかった)裏設定の交換会となったことを伝えて、筆を置きたいと思います。

 

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