事情により1週間延びていた「金星探査機『あかつき』、小型ソーラー電力セイル実証機『IKAROS』報道公開」が、JAXAの相模原キャンパスにて行われました。今回は会社を休み、宇宙作家クラブのメンバーとして取材に行って来ましたので、報告したいと思います。

9時半から受付を開始し、10時から始まった今回の報道公開ですが、まずは会議室にて20分ずつ、「あかつき」「IKAROS」の順番で、その概要説明と質疑応答がありました。

「あかつき」は金星の大気運動を主に調査する為の探査機です。特に「スーパーローテーション」と呼ばれる秒速100m以上の風が常に吹いているという、地球とほぼ同じサイズの惑星であるにもかかわらず、あまりにも地球と異なる大気運動が、一体どのような理由で生じているのかを突き止めるのを主目的としています。他にも「子午面循環はどうなっているのか」「雲はどうやって作られるのか」「雷は発生するのか」「活火山はあるのか」を調べることを目的としています。

もちろん、単に観測して知見を広げるわけではなく、スーパーローテーションにしても幾つかの仮説が既に立てられているので、これらを検証するためにはどのような観測機が必要なのかを検討した上で、今回の目的のために最も適した観測機材を搭載しているのだそうです。

今回は5台のカメラと、電波掩蔽観測のための基準信号源の6つの観測機器を搭載しています。
「1μm」「2μm」「10μm」の赤外線領域を観測する3台のカメラは、それぞれ「地表付近まで観測」「金星の雲の下」「雲層上層部」を撮影できるようにして、様々な高度での風の動きを調査します。
紫外線イメージャーは雲の形成に関わる二酸化硫黄などを調査します。もちろんこれは雲の形成に関わるわけですから、雲頂高度での風速分布を求めることが出来ます。
雷・大気光カメラは高度100km付近の高層大気を観測します。またこのカメラは32μ秒の高速露出が可能になっていて、雷放電発光が存在するかどうかも調査します。
その他の4台のカメラについては1時間に1回画像を撮る事になる予定だそうです。この辺は「ひまわり」など、地球の気象衛星が観測している周期と同じだそうです。あまり短い間隔で撮影しても必要な情報はあまり増えないので、この程度のインターバルで十分だろうと。

さて、この「あかつき」ですが、5月18日に打ち上げられた後、予定通りだと12月5日(?)に金星の周回軌道に乗る予定です。軌道は近金点300km、遠金点8万kmという楕円軌道に乗ります。軌道周期は30時間です。
この軌道を選択したのは、探査機が遠金点側にいる20時間は、スーパーローテーションの移動速度と探査機の移動速度がほぼ一致するため、大気の同じ場所を追いかけながら撮影することが出来る上、近金点に近い所では金星にかなり近づくため、クローズアップしてより高い解像度の映像を得られるためだそうです。

 

続いて「IKAROS」です。こちらは「太陽ヨット」だと思えば大体合っています。太陽からの光の圧力「光圧」を受ける帆(セイル)によって、太陽が輝いている限り力を受けて加速を続けることが出来るものです。

今回はその実証を世界で初めて行うのも目的としています。特に月軌道よりも遠い深宇宙での実証は例がありません。
またセイルを広げるのであれば、折角の大面積を活用しない手はないだろうということで、表面に太陽電池パネルを貼り付け、電気もこれによる発電でまかなう実証も行う予定になっています。

特に将来は木星探査機をやってみたいらしく、木星までの加速はセイルを使って行う予定だそうです。ただし、木星の周回軌道に乗せるためには太陽光の光圧だけでは難しいので、自由に噴射できるエンジンが欲しい。そのため、「はやぶさ」にも搭載したイオンエンジンを使うのが良さそうだという結論になっていて、このイオンエンジンを動かす大電力を作るのに、セイルに貼り付けた太陽電池パネルを使うのだそうです。つまり推進系はセイルとイオンエンジンのハイブリッドが有力だと考えていて、そのための実証を行うわけです。

ミッション自体は、ミニマムサクセスがセイルを無事に展開できるまで、フルサクセスはセイルによる加速と軌道制御が出来ることです。これは半年で達成する予定ですが、もちろん寿命は半年以上になるはずですので、様々な軌道制御技術を試すのと、薄膜太陽電池の劣化試験、惑星間空間のダスト量の観測を行う予定になっています。

さて、概要説明後は全体を4班に分けての別行動です。放送局と新聞は先に撮影に行ってしまいました。彼らから突っ込んだ質問が出ることはないだろうという事なのかもしれません。

逆に雑誌、Webメディア、そして作家陣は10時40分以降は12時頃まで、技術説明員による質疑応答が行われました。ここは遠慮無く、マニアックなところまでガンガン質問が飛びます。先に書いた内容にも、すでにそのマニアックな質問の一部を盛り込んでいますが、まぁ、そこはよしとしてください。時間があれば、もっとマニアックな内容は改めて書いていこうと思います。

その後はクリーンルーム見学です。ここはカメラを持ち込みましたので、写真による解説をしていきましょう。


クリーンルームを上から。手前が「IKAROS」、奥側が「あかつき」

 


金星探査機「あかつき」

 


「IKAROS」

 


クリーンルーム内

 


「あかつき」と「IKAROS」

 


「あかつき」全景

 


蓋の付いているのは「スタートラッカー」。2基のスタートラッカーと、太陽センサー(太陽がどちらの方向にあるのかを調べるセンサー)で、3方向を確認し、自機の位置を確認できるようになっている

 


左側、縦に3つ並んでいるのはカメラ。上から「中間赤外カメラ」「紫外線イメージャー」「1μmカメラ」
上に折りたたまれているのは太陽電池パネル

 


太陽電池パネルの本体接合部アップ。360度自由に回転できるようになっている。左右のパネルは独立稼働できるが、別々の方向を向ける意味はないので、基本的には同期して回転するとのこと。

 


「IKAROS」全景。真ん中の黒い棒は、セイルを抑えているバー。セルを展開するときには、最後にこのバーが開くことで展開を完了する。

 


右側の方に写っている四角いものは、先端マスというおもり。実証機は回転しており、この先端マスのロックを外すと、遠心力で本体に巻き付けているセイルが延びていく。これが90度ごとに4つついており、セイルが十字に延びきった後、バーが外れて、四角に展開する。

 


キチンと展開できたかを確認するカメラ。2つ用意されている。

 


おまけ。「あかつき」のフェルトで作られたマスコット(?)

 


別アングルから